慰霊から建築を考える──宗教、忘却、オリンピック

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【イベント概要】

「怨霊の国を可視化する」——これは、2016年に開催される「ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」のコミッショナーを決定するための、国際交流基金による指名コンペティションで、ゲンロンが提出した企画書のタイトルである。
残念ながらこの提案は採用されなかった。とはいえ、参加者の藤村龍至、新津保建秀、カオス*ラウンジ、渡邉英徳、津田大介とともに会議を重ねて案を練ったこの企画は、「福島第一原発観光地化計画」の理念を継承するものであるとともに、その問題意識をより拡張したものになっている。この提案を、建築史家の五十嵐太郎とともに検討しつつ、「慰霊碑」という、日本人が残してきた追悼の装置を軸に、「記憶と忘却」、「見えるものと見えないもの」、「データとリアル」、「災害」、「旅」、「霊」などについて考える。

イベントに先駆け、企画書の一部を下記に公開する。

 

 

怨霊の国を可視化する
haunted nation revisited/reposed

企画趣旨

日本は災害の国である。世界の大地震の5分の1が、世界の陸上火山の7分の1が、この狭い列島に集中している。台風も毎年のように襲来し、死者を出している。1959年の伊勢湾台風では、5000人を超える人々が犠牲になった。

日本は戦争の国である。大陸の東端に位置するこの島国には、古来、多様な民が渡ってきた。そのなかには戦闘的な一族もいた。日本の王朝は征服民の王朝である。日本の神話はその征服の記録で編まれている。王朝はその後も、中世に至るまで北方辺境の征服で拡大を続け、民もまた南方の海に海賊として乗りだしていった。近世には例外的に安定と平和の時代が訪れたが、そのあとはふたたび戦乱に戻った。第2次大戦での死者は、300万人に及んでいる。

それゆえ、日本は死者の国である。それも、怨念を抱えた死者の国である。災いと戦乱のなかで不遇の死を遂げ、幸せな生をつかめなかった怨霊たちを、たえず弔いながら歴史を紡ぎ続けてきた国である。古来、日本の文学者や芸術家たちは、そして政治家たちは、そのことをよく理解していた。日本最古の詩集、『万葉集』は数多くの挽歌を載せている。日本を代表する伝統舞台芸術、能は、死者を主人公とすることで大きな飛躍を遂げた。日本にはいまでも、災害博物館よりも戦争記念館よりも、はるかに多くの数の慰霊碑が建てられている。

日本人の多くは、いまその条件を忘れている。第2次大戦後の70年、日本はじつは、戦争がないだけではない、大噴火もなく大地震も数えるほどしかない、例外的に静かな時代を過ごしている。だからこそ、生者の利益だけを考え、経済大国として復活することができている。けれども、その代償として、死者を追悼し、怨霊を鎮め、歴史を前に進める知恵を失っている。結果として、日本はいまだに、大戦が生み出した怨霊に取り憑かれ、身動きの取れない状況に陥っている。そして、原発事故のあとも、災いの現実から目を逸らし続けている。

それゆえ、わたしたちはここで、日本の歴史を形作ってきた怨霊たちを召喚し、可視化し、その声に耳を傾け、怒りを鎮めてふたたび異界へと還す、ひとつの建築的な装置を提案したいと思う。慰霊碑であり、災害博物館であり、戦争記念館であり、公園であり、そして研修施設でありホラーハウスでありテーマパークでもある、生者と死者の困難な関係を体験する矛盾の場を作りたいと思う。

生者が住む建築ではなく、死者が宿る建築。哲学者の梅原猛は、7世紀に創建された日本最古の寺院のひとつ、法隆寺は、失脚し暗殺された一族の怨霊を鎮めるために建築されたと主張している。だとすれば、わたしたちは、この提案で日本建築の起源に戻っていると考えることもできる。

わたしたちは、災いと怨霊の大地に生きている。もしかりに、ヨーロッパの建築が、地霊を召喚し、ヨーロッパの哲学がハイデガーを経て生者の住まいへ辿りつくのであれば、日本の建築は、怨霊を召喚し、日本の哲学は京都学派を経て死者の宿へと辿りつかなければならない。わたしたちの提案は、ヴェネチアで、世界の観衆に向けて、生者が住まうのではない、死者が宿る建築の理念を提示しようとするものである。それは、生者の幸福のみに最適化された、グローバルな都市と市場に対するひとつのオルタナティブになりうるものであり、同時にまた、かくも大きな原発事故を引き起こし、にもかかわらずその事実を急速に忘却しつつあるわが国の現状に対して、重要な問題提起を含む計画であると確信している。 (東浩紀)

 

【イベント後記】


 

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togetter

五十嵐太郎 Taro Igarashi

1967年パリ生まれ。建築史・建築批評家。1992年東京大学大学院修士課程修了。博士(工学)。現在、東北大学大学院教授。あいちトリエンナーレ2013芸術監督、第11回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展日本館コミッショナーを務める。芸術選奨新人賞。『日本建築入門』(筑摩書房)、『被災地を歩きながら考えたこと』(みすず書房)、 『モダニズム崩壊後の建築』(青土社)、『現代建築宣言文集』(共編著、彰国社)ほか著書多数。

津田大介 Daisuke Tsuda

1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。 大阪経済大学客員教授。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。東京工業大学リベラルアーツセンター非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。ポップカルチャーのニュースサイト「ナタリー」の創業・運営にも携わる。 世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2013」選出。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)ほか。2018年11月13日に『情報戦争を生き抜く』(朝日新書)を刊行。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。

東浩紀 Hiroki Azuma

1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』など。

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