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批評はひとりでやるもんじゃない
ゲンロン批評再生塾も遂に三期目を迎えることになった。第一期と第二期は講師陣の一部リニューアルを除けば同じやり方だったが、このたび大きなリニューアルを敢行する。新しい試みは幾つかあるが、その最たるものは、著名な実作者をゲスト講師として迎えることである。そう、芸術/文化の現役の作り手自身が「批評対象」としてゲンロンカフェにやってくるのだ。つまり第三期の塾生は、これまで同様の批評家講師による課題に加えて、四人の実作者講師を生きた課題として真っ向勝負の批評文を書くことを求められる。そして上位に選ばれた者は、その人自身から講評と採点を受けられるのである。
実作者のゲスト講師には、それぞれのジャンルにおいて中核的なポジションに位置しているだけではなく、ご本人も批評家的な側面を濃厚に持ち合わせている方々にお願いした。それだけに講評は文字通りクリティカルな、すこぶるシビアなものとなる可能性が高い。だが、批評対象が最初の読者の一人であり得る批評ほど幸福なものはない。第三期の目玉である。わたし自身、どんなことになるか今からドキドキしている。
もちろん、通常回の講師にも新たな顔ぶれが加わる。その他、通常課題の傾向の刷新や、カリキュラム半ばでの長文批評のトライアル、聴講生システムの導入など、細かいリニューアルが施されている。過去二期の成果と反省を踏まえて大胆かつ繊細にヴァージョンアップされたゲンロン批評再生塾は、野心と意欲に燃える批評の徒に広く門を開いて待ち構えている。
もちろん厳しさだけを強調するつもりはない。批評再生塾は「塾」である。第一期、第二期、そして前身である批評家養成ギブスでの経験を顧みると、この塾は何よりもまず仲間や友人が見つかる場所である。この塾がなければ絶対に会うことなどなかった年齢も経歴も職業/身分も趣味嗜好も異なる者たちが、ほぼ二週間に一度、顔を合わせて講師の話に耳を傾け、学び、競い合い、講義の後には朝まで呑みながら語り合い(笑)、更には読書会や同人誌を立ち上げていくことによって、いつしか人生におけるかけがえのない友になっていく、そんな驚くべきプロセスをわたしは何度も目撃してきた。これは本当にそうなのだ。批評はひとりでやるもんじゃない。そして、批評はひとりじゃなくなることでもあるのだ。
ゲンロン批評再生塾、三年目の本気(マジ)へと来たれ、諸君!
2017年4月10日 佐々木敦
佐々木敦+東浩紀編著『再起動する批評 ゲンロン批評再生塾第一期全記録』(朝日新聞出版)
【イベント後記】
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佐々木敦 Atsushi Sasaki
撮影=新津保建秀
1964年生まれ。思考家/批評家/文筆家。音楽レーベルHEADZ主宰。映画美学校言語表現コース「ことばの学校」主任講師。芸術文化のさまざまな分野で活動。著書に『成熟の喪失』(朝日新書)、『「教授」と呼ばれた男』(筑摩書房)、『増補新版 ニッポンの思想』(ちくま文庫)、『増補・決定版 ニッポンの音楽』(扶桑社文庫)、『ニッポンの文学』(講談社現代新書)、『未知との遭遇【完全版】』(星海社新書)、『批評王』(工作舎)、『新しい小説のために』『それを小説と呼ぶ』(いずれも講談社)、『あなたは今、この文章を読んでいる。』(慶應義塾大学出版会)、小説『半睡』(書肆侃侃房)など多数。