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【イベント概要】
▼土居伸彰さんより大充実の概要が届きました!
《4/5更新!!》
このイベントのスタート地点となるのは、山田尚子『リズと青い鳥』とウェス・アンダーソン『犬ヶ島』です。『リズと青い鳥』について新海誠はツイッターで「アニメーションの理想型として想定されている類型から大きく外れた作品」といったようなことを言っていましたが、確かに本作は「外れた」作品でした。その「類型から外れた」感覚は、『犬ヶ島』にも感じたものでもありました。アニメーションは観客と作品とがぴたりとくっついて一体化することが常なのですが、これらの作品を観ていると、ゴロリと「異物」のようなものが蠢きつづけるような感覚があったのです。
僕は『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』、『21世紀のアニメーションがわかる本』という2冊の本でアニメーションの「原形質性」の読み直しを行いました。エイゼンシュテインとノルシュテインの理論をベースに、アニメーションの描線をある種の「記号」として捉え、描かれたものそのものではなく、描かれたものが想起させるものこそがアニメーションにとっては重要であると指摘しました。つまり、観客が作品を観ることを通じて生み出す何ものかの自由自在な変容(=原形質性)こそがアニメーションを観る体験であると語ったわけです。そして、その「原形質性」の原理が、21世紀=デジタル化したアニメーションを理解するために重要だと説きました。『21世紀のアニメーションがわかる本』では、それを理解するうえで様々な作品の事例を挙げ、なかでも重要な作品のひとつとして山田尚子の『聲の形』を取り上げたのですが、この本ではどうも、この作品の本質を捉えそこねているような気がずっとしてきました。その違和感が、新海誠のツイートを読んで、改めて浮上してきたわけです。
僕は『21世紀のアニメーションがわかる本』で、20世紀の「生命の幻想」が生み出すリアリティと21世紀の匿名的・非人間的な運動のリアリティを対比させてきましたが、昨年、高瀬康司さんの某所での発表を聴き、21世紀において何がアニメーションでリアリティを生み出すかについては、別の角度からも論じることができるのだと驚かされました。その発表の論点のコアにあるのは、
新海誠が、デジタル時代のアニメにおいて、「光」によるリアリティ創出の原理を強く推し進めた、というものであり、それが、山田尚子のいる京都アニメーションの作品のベースにもなっているという見立てでした。高瀬さんの「デビュー作」(といっても既に『Merca』の活動を通じて、長年のキャリアがあったわけですが)である『アニメ制作者たちの方法』は、「光が生み出すリアリティ」という話を、アニメ制作における「撮影」という、デジタル化によって巨大な役割を担うようになった作業工程にフォーカスを当てることで、語る本であるように思いました。
高瀬さんの言う「光が生み出すリアリティ」という話は、僕がこれまで取り上げてきた作家たちについても再考を促しました。たとえば、デイヴィッド・オライリーがゲーム『Everything』を作るにあたり「グレーディング」を重視したと語っていることがふと思い出されました(僕自身は、CGアニメーションにおける人の手が加わらない「野生」の状態を活用したことに彼の新規性を見ていました)。さらには、ウェス・アンダーソンの人形アニメーション作品とそれが世界の人形作品にもたらした革命も、実は光こそが重要だったのではないかと(僕はキャラクターたちに吹き付ける風とそれによってなびく豊かな毛のテクスチャこそが大事だと思っていました)。僕はノルシュテインの『話の話』を理解するために「原形質性」に注目しましたが、それは実は2D(線画・平面)アニメーションにとっては有効だったけれども、輪郭線のない3D作品にとっては、別の原理が必要だったのではないかと思ったわけです。立体性を生み出す光/光が生み出す立体性は、僕がキュレーションしたICCでの展示「イン・ア・ゲームスケープ」がフォーカスをあてたマシニマやオープンワールドといったトピックにもつながります。そしてなにより、新たなドキュメンタリーが公開されたばかりのノルシュテイン『外套』にとって重要なのも、主人公のアカーキィ・アカーキエヴィッチを曖昧な印象のままに留める照明=光であるということを思い出したわけです。
ですからこのイベントは、光=照明=撮影というモチーフから、アニメーション史を再構築してみよう、というものになります。それは、(まだ何と呼んでいいかわからないのですが)「オブジェクト」もしくは「異物」のアニメーション史と言えるのかもしれません。その歴史は、僕のこれまでの仕事である「原形質性」の歴史と相補的な関係になることでしょう。『個人的なハーモニー』の出版記念でのゲンロンカフェでのイベントで、僕のアニメーション史における押井守の不在が指摘されましたが、この3Dアニメーションの歴史を形成するためには、押井守は重要な位置を占めることになるでしょう。
歴史の話をするとすれば、6月より東京近代美術館で大規模な展覧会が開催される高畑勲も、今回の視点から新たに捉え直すことできるかもしれないと考えています。主に、新海誠との対比においてです。『おもひでぽろぽろ』までリアル志向の絵にこだわって制作をしてきた高畑勲は、その後、その危険性に気づき、『ホーホケキョ となりの山田くん』や『かぐや姫の物語』で突き詰められたような「いかにも絵である」方向性へと転換していきました。そんな高畑にとって、新海誠の背景は、そのリアル志向を現代的に蘇らせたようなものであり、おそらく許しがたいものであったはずです。一方、新海によるリアル志向の(光によってリアリティを補強された)背景描写は、高畑とは別のリアリティに立つものでもあります。つまりどういうことかといえば、「光」に着目することで、20世紀のリアリティと21世紀のリアリティの違いについて、別の角度から考えることができるということです。それを仮に、「20世紀=高畑=ヒストリカル(かつ事実志向・ヒューマニティ的)なリアル」と「21世紀=新海=マルチディメンション(かつ非事実志向的・ポスト・ヒューマン的)なリアル」の対立と言ってみてもいいかもしれません。そして、『リズと青い鳥』や『犬ヶ島』は、21世紀のリアリティに立脚しながらも、20世紀から連綿と続く「オブジェクト」「異物」としてのアニメーションの歴史をも浮上させる、立体アニメーションについての新たな示唆を与えるものになるのではないでようか。
イベントでは、アニメーションにおける光をテーマにして、今年新作『天気の子』がリリースされる新海が作り上げた21世紀的リアリティの行方を占いつつ、一方で、高畑イズムを共有する同志たちによる20世紀的リアルの逆襲(今年はノルシュテインのドキュメンタリーをはじめとして、ミッシェル・オスロの『ディリリとパリの時間旅行』、ロジャー・メイウッドの『エセルとアーネスト』など20世紀から活動を続ける巨匠たちの作品が続けざまに日本で公開される年でもあるのです)についても、その意義を改めて捉え直してみようと思います。
そのなかで僕自身は、これまで書いてきた「原形質性」への批判を自ら展開しつつ、「オブジェクト性」(仮)という観点から、他者を見出すこととしてのアニメーションについて、『外套』についても触れながら考え、新しいアニメーション論を立ち上げる準備ができればなと考えています。
映画『ユーリー・ノルシュテイン《外套》をつくる』公開記念&高瀬康司編『アニメ制作者たちの方法――21世紀のアニメ表現論入門』刊行記念イベントをゲンロンカフェにて開催!!
アニメーション映画監督・片渕須直氏をはじめ、世界に名だたるアニメ制作者たちの「表現」について、作家自身の声と、技術や潮流の変化から分析した『アニメ制作者たちの方法――21世紀のアニメ表現論入門』。
本書を編集した高瀬康司氏をお招きし、『21世紀のアニメーションがわかる本』『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』の著者、土居伸彰氏とのトークイベントを開催いたします。
まもなくシアターフォーラムにて公開される新作映画『ユーリー・ノルシュテイン《外套》をつくる』では、30年以上の制作期間をかけてもなお、まだ未完の作品『外套』の制作に挑むノルシュテイン氏の声が映し出される。
現代に生きる21世紀のアニメーション制作者たちは、どのような表現を求めてきたのか、そしてこれから、どのような歴史を紡いでいくのか。
実際の作品・作家を紹介しながら、新しいアニメーション論を展開いたします。
ぜひ会場へおいでください。
高瀬康司編『アニメ制作者たちの方法――21世紀のアニメ表現論入門』
いまアニメを作るためのクリエイティビティはどこに眠っているのか。
いまアニメを見ることの可能性はどこに繋がっているのか。
アニメを「作る」ことと「見る」こと、その二つの重なり合う日本アニメの最前線に立つための必読書!
★『アニメ制作者たちの方法――21世紀のアニメ表現論入門』のための補足資料
第1回 井上俊之×押山清高「スーパーアニメーターたちが語る、アニメーターとして活躍していくための基礎技術」
第2回 アニメの「コマ打ち」とは何か――井上俊之が語る「コマ打ち」の特性
第3回 なぜ批評家はこれほどまでに『プリパラ』を推すのか
第4回 見てわかる、アニメの撮影――泉津井陽一が図解するコンポジットの基礎
★SNSでも大反響! 『アニメ制作者たちの方法』の感想まとめはこちらからお読みいただけます!
映画『ユーリー・ノルシュテイン《外套》をつくる』(3月23日よりイメージフォーラムにて公開!)
苦悩、情熱、そして創造 —
アニメーションの神様、ノルシュテインの深部に迫るドキュメンタリー
ロシアを代表するアニメーション作家ユーリー・ノルシュテイン。『話の話』『霧の中のハリネズミ』など数々の名作を生み出し、手塚治虫、宮崎駿、高畑勲監督ら日本の巨匠をはじめ世界中のアニメーション作家たちから敬愛されている。彼は30年以上の歳月をかけて、ロシアの文豪ゴーゴリの名作「外套」のアニメーション作品を制作しているが、未だ完成に至っていない。それどころか、近年は撮影が止まっているという。
2016年6月、カメラはモスクワにあるノルシュテイン・スタジオ“アルテ”に向かう。そこにはおびただしい数のスケッチ、キャラクターパーツ、埃をかぶった撮影台が…。 世界が待望する『外套』はいつ完成するのか、なぜ『外套』なのか。未完の映像を織り交ぜながら、ノルシュテインが自身の心の内を語る。
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土居伸彰『21世紀のアニメーションがわかる本』
土居伸彰『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』
当日のtweetのまとめはこちら!
高瀬康司 Koji Takase
サブカルチャー批評、アニメ研究。カルチャー批評ZINE『Merca』主宰。編著に『アニメ制作者たちの方法――21世紀のアニメ表現論入門』(フィルムアート社、2019年)。
土居伸彰 Nobuaki Doi
1981年東京生まれ。株式会社ニューディアー代表、ひろしまアニメーションシーズン(ひろしま国際平和文化祭 メディア芸術部門)プロデューサー。アニメーションに関する研究、執筆、配給、イベント企画運営、プロデュースおよび制作に携わる。国際アニメーション映画祭での日本アニメーション特集キュレーターや審査員経験多数。著書に『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』、『21世紀のアニメーションがわかる本』(いずれもフィルムアート社)、『私たちにはわかってる。アニメーションが世界で最も重要だって』(青土社)、『新海誠 国民的アニメ作家の誕生』(集英社新書、2022年10月発売)。2023年7月より企画・プロデュースするTVシリーズ『いきものさん』(和田淳監督)が、MBS/TBS系 全国28局で放送。
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