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講評無料
〈ゲンロン 大森望 SF創作講座〉の実作講評会の模様を無料生中継します。放送開始は22:00を予定しています。
タイムシフトは公開しませんので、あらかじめご了承ください。
【実作課題】
物語の原点には、「象の鼻はなぜ長いか」「なぜ世界があるのか」といった、物事の起源に遡る「なぜ」という疑問詞の働きがあります。SFミステリでは「どのように」が問われるハウダニットが多いですが、今回の課題では「なぜ」を問うホワイダニットを、作品の第一手として設定してみてください。ただしあくまで謎を「解こうとする」物語なので、その結果としては必ずしも答えが与えられる必要はありません。スタニスワフ・レム『ソラリス』のように、問うこと自体が人間の限界を映し出す場合もあるでしょう。答は決して一様ではありませんが、出発点が「なぜ」で始まる、謎に立ち向かう物語を作成してほしいと思います。
AlphaGoにプロの棋士が「なぜこんな手を打ったかわからない」と言うように、テクノロジーはいずれ人間に理解できないほどに進歩を遂げることでしょう。しかし逆に言えば、人間だけが「なぜ」を問うことができます。そこから何か物語を引き出せれば、シンギュラリティの向こう側をヒューマン・ランゲージに翻訳し、いまの時代に求められている答えを提示できるのではないか。そう考えて、このような課題を考えてきました。(法月綸太郎)
(大森主任講師からの補足)
SFの場合は対象が世界そのものの謎になるので、「なぜ主人公にその謎がとけるのか」にもしっかりした理由がほしい。これまでの人類が一人も解けなかった謎を、どうして主人公だけが解けてしまうのか。SFとして成立させるには、その点をしっかりと描くことが重要。
(参考文献)
スタニスワフ・レム『ソラリス』
バリントン・J・ベイリー『時間衝突【新版】』
フレドリック・ブラウン「ミミズ天使」(『天使と宇宙船』より)
グレッグ・イーガン「ルミナス」(『ひとりっ子』より)
【梗概課題】
小説を読むときに、「この作家の成長を見届けたい!」「可能性に賭けたい」などと考える人はほとんどいません。たいていの人は、たんに楽しむために本を手に取り、読んでいるはずです。
そんな読者に届けるために、今回の課題で意識してほしいのが「おもてなし」です。これから構築するお話を自分の家だと思って、その中に読者を招待し、おもてなしする方法を考えてみてください。
今回書くのは短篇ですから、豪邸を建てようと思う必要はありません。一点豪華主義でいいんです。
お客さま(=読者)に、「あのお酒はおいしかった」とか、「ソファの座りごこちだけはよかった」と思ってもらえるように、どこか一点でよいので、読者の心を掴めるような梗概を作ってください。
(参考文献)
星新一さんの作品すべて。
とくに初期のショートショートには「おもてなし」の秘訣が詰まっています。
【イベント後記】
当日のtweetのまとめはこちら!
円城塔 Enjoe Toh
写真提供=新潮社
1972年、札幌生まれ。研究者を経て作家。SF、純文学問わず広く活動中。主な著書に、『Self-Reference ENGINE』(文藝春秋、2014年 Philip K. Dick Award 特別賞)、『烏有此譚』(講談社、第32回野間文芸新人賞)、『道化師の蝶』(文藝春秋、第146回芥川龍之介賞)。訳書に、チャールズ・ユウ『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』(早川書房)。近作に『シャッフル航法』(河出書房新社)、『エピローグ』(早川書房)、『雨月物語』(河出書房新社、池澤夏樹個人編集日本文学全集所収)、『プロローグ』(文藝春秋)。
伊藤靖(河出書房新社) Yasushi Ito
大森望 Nozomi Ohmori
1961年高知生まれ。書評家・SF翻訳家・SFアンソロジスト。〈ゲンロン 大森望 SF創作講座〉主任講師。著書に『21世紀SF1000』、『新編・SF翻訳講座』、《文学賞メッタ斬り!》シリーズ(豊崎由美と共著)、《読むのが怖い!》シリーズ(北上次郎と共著)など。アンソロジーに《NOVA 書き下ろし日本SFコレクション》、《不思議の扉》の各シリーズのほか、『星雲賞SF短編傑作選 てのひらの宇宙』など。訳書にコニー・ウィリス『ブラックアウト』『オール・クリア』など多数。2013年には『NOVA』が第34回日本SF大賞特別賞を受賞。