ゲンロン ひらめき☆マンガ教室#10映像

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【ネーム課題】

昔話(自由課題)

こんにちは。今井です。

今回ゲンロンさんから、僕の受け持つ授業は「映像」ですというふうにお題をもらいました。

静止画と文字からなる漫画というメディアで、音と動きと時間経過のメディアである「映像」を表現する方法とは・・・意義とは・・・のようなことをお話しすればよいのかなと最初は考えていたのですが、なんだか非常に難しい話になりそうだぞと次第に思いはじめ、そもそも普段そんなこと考えながら漫画描いてるわけじゃないな僕、すごーい! わかんないや! というところに思い至ったので、申し訳ないですが今回はもう少し手前のところから、より現場的なお話をしようと思います。

そもそも僕たちは、漫画で何をどのように表現するべきなのでしょうか?

漫画を描く人間は魂の内側にどんな渇望を抱えていて、世の人々にどんなことを伝えたくてペンをとるのでしょうか。

ミもふたもない話で恐縮ですが、僕の答えは「そんなもんどうでもいい」です。

漫画というのは面白ければなんでもいいのです。読者が第一に求めているのは、読みながらハラハラドキドキしたり、わくわくしたり、笑ったり悲しんだり癒されたりその他諸々エンターテインさせられちゃうようなことであって、極論をいえば、そこに作者がどんなメッセージを込めているか、作者にとってこの漫画を描いたことの意義はなにか、なんてことをいちいち几帳面に読みとろうとしているわけではありません。なかにはそういうところまで丁寧に読んでくれる人もいますが、(そして、そういう人に『正しく届いている』ことがわかるととても嬉しくなることはたしかですが、)かれらもおすすめの漫画を聞かれたらまずは「文句なしに面白かった漫画」を紹介するはずです。

言いかたをかえると、どんなにすばらしいメッセージがそこで訴えられていたとしても、どんなに革新的な試みがなされていたとしても、すくなくとも商業漫画としては面白くなかったらダメなのです。我々のネームが編集者にボツにされ、あるいはどうにか掲載されてもネットであの漫画クソとかダメとかいわれたり読んでくれた知人が微妙な苦笑いで優しく接してくれたりするのはひとえに、その漫画がその人にとってあんまり面白くなかったからなのです。みなさんいかがですか、そういう経験はありませんか。僕はたくさんあります。チクショウ! ぶっころしてやる!

もちろん、どんなに人から悪く言われても、「いや俺の描く漫画は絶対に面白いはずだ」「理解できないやつがいたとしたらそいつのセンスがたりないのだ」と開き直り、自分の描きたいこと、自分の考えた面白さを徹底的に貫き通す姿勢は大切です。もちろん僕にもそういうところがあります。編集者との打ち合わせのあと全然違う内容のネームを提出したり、ここをこう直したらどうですかといわれて全然違う直し方をしたり。そういうことをしている漫画家はとても多いのではないでしょうか。

しかしもう一方で、「この漫画は面白いだろうか」「もっと面白くする方法はないものか」と謙虚に考え続けることはやはり大切です。
作品のテーマ、伝えたいメッセージ、自分がなんのために漫画を描くのか・・・のようなことは、おのおのが自分の中で考えて答えを持っていればそれでいいですが、「この方法で読者を面白がらせることができているか」「この漫画面白い?」については、作者は徹底的に懐疑的にストイックに、より良いものを求めて頭と手を動かし続けなくてはならないものだと僕は考えています。すくなくとも、ほかに取り柄とか才能がこれといってない、僕のような漫画家にとっては。

僕はありがたいことに来年でデビュー10年になります。しかし、このお題目だけはつねに忘れないようにしていないと、今でも僕の漫画はまったく面白くならないのです。

さて、前置きがかなり長くなってしまいましたが、ここで今回の課題のお話です。
じつは、今言ったような「目の前の漫画をより面白くする」ということに関しては、かなりの部分を理屈でなんとかすることができます。

急に卑近な話になってきましたね。でもそうなのです。

面白い漫画というのはじつは、「読みやすい漫画」とニアリーイコールです。キャラクターのセリフ、表情、構図、それらを追いかけていくことで分かってくる「どんな出来事が描かれているか」(つまり、あらすじとかプロットとか、そういう部分のことです)、さらに、それら全体から立ちのぼってくる雰囲気、情感のようなもの・・・まで、よくできた漫画はすべてがスッとストレスなく入ってきます。究極的には、ページをめくる手が止まらない、と表現されるあれです。みなさんがこれまで読んだ漫画、好きな漫画を思い浮かべてみてください。だいたいそうだったのではないでしょうか。
読みやすく描けている漫画というのはつまり、作者が、読者にこのように読んでほしいと企図した内容が、おおむねすべて誤解なく、ひっかかりもなく、その通り読みとられている、ということなのです。読者を面白がらせるためには、まずこれができることが最低条件だと言わなければなりません。なかには何も考えずに天然でいきなりクソ面白い漫画を描いてしまう天才もいますが、そういう人のことはいったん忘れましょう。凡人には凡人の道があるのです。

たとえば。
「絵はうまいんだけどアクションシーンで何が起こってるのかよくわかんないよね」「突然挟まってくるこの意味ありげなコマはなに?」「顔のアップばかりでメリハリがない」・・・よく言われる、こういうタイプの「あんまりうまくない漫画」は、「この絵の次にこういう絵を描くとこういう風に見えます」という理屈を知って実践することでかなり改善できます。そのうえで、ソリッドで写実的にしたいのか、うんとエモい雰囲気を出したいのか、ほんわかかわいくしたいのか、などもコントロールできますし、顔漫画なのに退屈させない、背景しか描いてないのにキャラの心情が伝わる、などということも可能です。映画のモンタージュ理論や歌手の歌唱トレーニング法のように、漫画も教科書的な理屈を知ることである程度以上のレベルまでおもしろくすることは可能なのです。

(僕の漫画はよく『映像的』『アニメや映画を観ているよう』と評されることが多いのですが、これも実は、『そう見えるように狙って描いています』という部分がわりとあります。ということにすればゲンロンさんからもらったテーマにも応えられるのではないでしょうか! あざやかな伏線回収だ! ヤッター!)

えー、そこで今回は、「これこれこういうテーマを表現してください」というような課題は設定しません。なんでもいいのでとにかくネームを1本仕上げてきてください。これまでの授業と同じく、最終的に上位作品を点数制で選出することにはなりますが、それとは別に、上位に限らず提出された作品を時間の許す限り添削することに主眼を置きます。可能なら全部見たいです。それぞれのネームに対して、「ここをこうしたらもっとおもしろくなるはず!」というテクニックを具体的に提示していきたいと思いますので、作品づくりの参考にしてください。

これはかなりのビッグマウスに聞こえるかもしれませんが、ぶっちゃけた話、「読みやすい」というテクニックの部分がクリアできていれば、どんな雑誌の新人賞でも賞に引っかかるくらいのレベルにはなりますし、そのレベルに到達していれば、そこからさらにメチャクチャ面白くするにはどうすればいいか、の部分に思考のリソースをつぎ込むことができます。もし気になることがあれば質問もどんどんしてください。
もちろん、なにも直すところがない、完璧な面白いネームが出てきたら最高だと思います。そのときはむしろ僕から作者のかたに「ここどうやったんですか」と教えを乞うかもしれません。よろしくおねがいします。

ただまあ、「何でもいいから面白い漫画描いて持ってきて」ではやはりハードルが高そうに思うので、一応お題めいたものも設定しておきましょう。

たとえば「昔話」はどうでしょうか。これはどちらかというと、何もアイデアが出てこない! どうしよう! という時のための保険です。ただ単に、ネタを出すための最初のとっかかりとしてお題を置いておきます。

たとえば桃太郎を原典に忠実に漫画化してもいいですし、スペースオペラとか剣と魔法のファンタジーに置き換えてみもいいです。あるいは特に関係ない現代劇だけど、子供の頃桃太郎の絵本を読み聞かせてもらった思い出が物語のカギになっている、などというのでも面白そうです。
恋愛スポ魂SFミステリギャグ日常系バッドエンド、何でもかまいません。誰でも知っているような有名な昔話でもいいですし、あまり知られていない国や地方の民話などを引っ張ってきても、それっぽければ架空の昔話をでっち上げてもいいです。そしてぶっちゃけ、授業のコンセプトが上記のようなものですので、思いついたかたは昔話を題材にしないものを描いても問題ありません。
ここまで読んで、何だかかえって難しそう、よくわかんない、という方は、とりあえず全部忘れて「昔話」だけ意識してもらえればいいです。

以上です。みなさんのネームが読めるのを楽しみにしています。

よろしくおねがいします。

(今井哲也)

【実作課題】

感触が伝わる漫画

漫画に関わらずエンタメの面白さの一つに「共感」があります。
それは大まかに二種類あって、一つは知識、体験の共感。
そしてもう一つは「肉体に備わる五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)の共感」
その中でも今回は「触覚・肉体的接触」をテーマにしてください。

何かしらか肉体が触れあうシーンを肝にして創作してください。
指と指が触れあうような繊細なドラマでもいいし、
激しく殴り合うハードヒットな格闘物でも結構です。

私はエロ漫画家ですが、提出する作品はエロやセクシーの要素を必ずしも入れる必要はありません。
(もちろんがっつり成年向けにチャレンジしていただいてもOKです)
(師走の翁)

 

【イベント後記】

 

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togetter

 

 

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西島大介 Daisuke Nishijima

1974年東京生まれ。〈ゲンロン ひらめき☆マンガ教室〉ひらめき☆プロデューサー。2004年に書き下ろし長編コミック『凹村戦争』(早川書房)で漫画家デビュー。同作は平成16年度第8回文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品となり、またこの年に星雲賞アート部門を受賞。代表作に『世界の終わりの魔法使い』(河出書房新社)『すべてがちょっとずつ優しい世界』(講談社)など。IKKI休刊により未完となった『ディエンビエンフー』が2017年1月より「月刊アクション」(双葉社)に移籍、『ディエンビエンフー TRUE END』として連載再開。イラストレーター、アートディレクターとして装幀画やCDジャケットを数多く手掛け、「DJ まほうつかい」名義での音楽活動やアーティストとしての個展も開催する。

さやわか Sayawaka

1974年生まれ。ライター、物語評論家、マンガ原作者。〈ゲンロン ひらめき☆マンガ教室〉主任講師。著書に『僕たちのゲーム史』、『文学の読み方』(いずれも星海社新書)、『キャラの思考法』、『世界を物語として生きるために』(いずれも青土社)、『名探偵コナンと平成』(コア新書)、『ゲーム雑誌ガイドブック』(三才ブックス)など。編著に『マンガ家になる!』(ゲンロン、西島大介との共編)、マンガ原作に『キューティーミューティー』、『永守くんが一途すぎて困る。』(いずれもLINEコミックス、作画・ふみふみこ)がある。「コミックブリッジ」で『ヘルマンさんかく語りき』(作画:倉田三ノ路)を連載中。

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放送開始
2017/12/16 18:00
タイムシフト視聴終了
2017/12/16 21:00
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2017/12/16 21:00
タイムシフト視聴終了
2017/12/16 23:59