ネットで
見る
-
[梗概講評]一般無料
〈ゲンロン 大森望 SF創作講座〉の講評会の模様を無料生中継します。放送開始は20:00を予定しています。
タイムシフトは公開しませんので、あらかじめご了承ください。
■
【梗概課題】
SFは「未来の文学」と言われてきました。来るべき未来を小説のかたちで予測することがSFの重要な機能のひとつだった時代もあります。
いまや、ストレートな未来予測の物語は、ジャンルSFの中では少数派。また、10年先、20年先ならともかく、今世紀後半以降の未来をリアルに空想することはたいへん困難でしょう。
しかし第1回は、あえて、この困難でベタなテーマに挑戦していただきたいと思います。すなわち、
「100年後の未来」の物語を書いてください。
西暦がまだ続いていれば、2119年。人類文明は滅亡しているかもしれないし、意外にいまとそんなに変わらないかもしれません。時代設定がざっくり100年後でさえあれば、「100年後の未来」をこと細かに描写する必要はありません。人類100年間の歩みや、「100年後の世界はこうなっている」という説明を作中で披露することは、物語にとってはむしろマイナスになります。説明ではなくストーリーから「100年後」感を出せればそれがベストですが、「100年後はこんな感じかもなあ」と読者を納得させることさえできれば、やりかたは問いません。
短編SFの時代設定に「100年後」が選ばれることはめったにありませんが(そのぐらいハードルが高い)、日経「星新一賞」のジュニア部門(中学生以下のみ対象)は、毎回「100年後の未来を想像して物語を書いてください」という課題が与えられています。同じテーマに大人が本気で挑んだらどうなるのか。第4期SF講座、最初の腕試しとして、正面から(あるいは搦め手から)トライしてみてください。健闘を祈ります。
(大森望)
■
ゲンロンSF創作講座2019へようこそ
2016年4月にスタートした「ゲンロン 大森望 SF創作講座」は、早いもので4年目を迎え、このほど第4期を開講する運びとなりました。
4期めともなると、毎年開講されるのがあたりまえみたいに思われているかもしれませんが、ゲンロンという場と、その運営を支える社員並びにスタッフのみなさん、毎回たいへんな労力を要求されるゲスト講師を引き受けてくれる作家・編集者のみなさん、卒業後もこの講座への愛情と関心を持ち続けている元受講生、受講したことはないもののウェブに発表される梗概や実作を熱心にウォッチしてくれるSFファンの方々……などなど、有形無形の多くの力に支えられて、奇跡的に続けられているというのが現状です。ピースがひとつでも欠けるとすぐに立ちゆかなくなってしまうので、「いつか受講したいと思ってるんだけど……」という人は、いまのうちにぜひ。第4期が最後になるかもしれませんよ!
実際にどんな講義が行われているかについては、第1期の内容をコンパクトにまとめた『SFの書き方 「ゲンロン 大森望 SF創作講座」全記録』(早川書房)をぜひ読んでみてください。ゲスト講師陣の講義と講評、受講生が提出した梗概(+アピール)および実作例を収録し、編者の手前味噌ながら、1年間の講座の成果を1冊に凝縮した、たいへん中身の濃い本になったと自負しています。
講座が軌道に乗った2018年以降は、現役受講生や元受講生の活躍が目立っています。第2期受講生の八島游舷氏は、講座でも高い評価を得た提出作を改稿した「Final Anchors」と「天駆せよ法勝寺」で、それぞれ、第5回日経「星新一賞」グランプリと第9回創元SF短編賞を受賞。また、同じく第2期受講生の神津キリカ氏は、「水靴と少年」で第1回宮古島文学賞の一席を受賞しました。
第1期の受講生では、名倉編氏が、第58回メフィスト賞を受賞した長編『異セカイ系』で講談社タイガからデビュー。櫻木みわ氏は講座で提出した実作の改稿版を中心とするデビュー短編集『うつくしい繭』を講談社よりハードカバーで刊行。また、山田しいた氏は講談社《コミックDAYS》の連載『乙女文藝ハッカソン』で漫画家としてプロデビューを飾り、現在、第2巻まで単行本化されています。
現在進行中の第3期では、揚羽はな氏が、講座提出作を改稿した短編「Meteobacteria」で第6回日経「星新一賞」優秀賞を受賞しました。
……などと書いていると、受講生の合格実績をアピールする予備校の宣伝みたいですが、こうした成果はそれぞれの書き手の努力の賜物。ゲンロンSF創作講座は、べつだん「新人賞を獲らせること」を第一の目的にしているわけではありませんし、受講生も、作家デビューを目指す人ばかりではありません。「ゲストの話を聞きたい」とか、「小説を書いている人たちと交流してみたい」とか、「本物の編集者と話がしてみたい」とか、そういうカジュアルな参加も歓迎します。また、作品を書くつもりはまったくないが講義は聞きたいという人には、聴講生システムも用意しています。受講生全員(聴講生含む)には、講義および講評すべてを収録した動画アーカイブが公開されるので、講義を欠席しても、自宅で視聴できます。
逆に、石にかじりついてでも職業作家になりたい人にとっては、実力を試す最高の場になるはず。書きたい作品のあらすじとポイントをアピールする力は、プロになったとき、必ず役に立つでしょう。
小説の書き方は、かならずしも教えられて身につくものではありません。とはいえ、ジャンルのさまざまなテーマに応じた作法や心構え、やってはいけないことなど、学べることもたくさんあります。これまで、公募新人賞への投稿と落選を漫然とくりかえしてきた人は、自分が考えたプロット、書き上げた作品をプロの講師に見てもらい、意見や評価を聞くだけで、よほど効率的に小説のスキルが磨けるはず。ファンタジーやホラー、ミステリ、純文学など、SF以外の分野で作家になる道を模索している人にとっても、小説を書く基本は同じですし、SFの書き方を身につければ、それが強力な武器となるでしょう。
また、これは自主的な課外活動の範疇ですが、講義終了後の飲み会では、毎月、朝まで語り合う受講生も多数。2019年には、1期生、2期生、3期生有志合同の新年会も開かれました。同じ目標に向かって進む仲間との情報交換が貴重な財産になっているようです。来期以降もつづくかどうかはわかりませんが、現在は、毎月提出される課題作品を元受講生が自主的にウォッチして講評するインターネットラジオ番組「ダールグレン・ラジオ」や「SF創作講座2期ゴッドガンレディオ」があり、講師以外からのセカンドオピニオン、サードオピニオンを聴くこともできます。さらに、元受講生による同人誌SF同人誌《SCI-FIRE》が刊行されるなど、講座だけではなく、(積極的に参加するかどうかはともかく)さまざまな活動の輪が広がっているのが特徴です。
過去3年間はうれしい驚きと発見の連続でしたが、第4期のゲンロンSF創作講座でも新たな個性に出会えるのを楽しみにしています。
主任講師 大森望
小浜徹也(東京創元社) Tetsuya Kohama
1962年、徳島県生まれ。京都大学SF研究会OB。1986年に東京創元社へ入社し、編集者として一貫してSFを担当。近年の担当書籍は、松崎有理、宮内悠介、酉島伝法、高山羽根子など創元SF短編賞出身者の作品、中村融のテーマSFアンソロジーや、2016年に始めた創元SF文庫の新版・新訳版シリーズ〈SFマスターピース〉など。ウンベルト・エーコと島崎博の来日イベントの司会をつとめたことが生涯の自慢。2000年に柴野拓美賞を受賞。
大森望 Nozomi Ohmori
1961年高知生まれ。書評家・SF翻訳家・SFアンソロジスト。〈ゲンロン 大森望 SF創作講座〉主任講師。著書に『21世紀SF1000』、『新編・SF翻訳講座』、《文学賞メッタ斬り!》シリーズ(豊崎由美と共著)、《読むのが怖い!》シリーズ(北上次郎と共著)など。アンソロジーに《NOVA 書き下ろし日本SFコレクション》、《不思議の扉》の各シリーズのほか、『星雲賞SF短編傑作選 てのひらの宇宙』など。訳書にコニー・ウィリス『ブラックアウト』『オール・クリア』など多数。2013年には『NOVA』が第34回日本SF大賞特別賞を受賞。