ゲンロン 大森望 SF創作講座 第8期#3授業 3

「ゲンロン 大森望 SF創作講座」の授業です。担当講師は長谷敏司先生と塩澤快浩先生と大森望先生です。

【スケジュール】

1限 19:00-20:00:講義

2限 20:10-22:10:梗概講評会

3限 22:20-23:20:実作講評会

【第3課題】

「物書きとしての自分の武器を考えてみる」

みなさんと講師として何年もおつきあいさせていただいていて、さまざまな適性、特徴、パーソナリティの受講者さんと出会ってきました。
その中で感じるようになったのは、講座が終わった後、2年、3年と、書き続けてゆくことの難しさです。
素晴らしいセンスの持ち主、確かな文章力の持ち主が、講座が終わって発表の機会が減ったことで、あるいは仕事環境の変化などで、講座中と比べると大きく原稿生産量が落ちるということが、起こっているように思えます。

この現象は、小説との関わりは人生のおりおりで近くも遠くもなるものなので、適切な原稿量になっている、人生にとってプラスの変化であることも多いはずです。
また、成功して編集者さんとの付き合いができた場合、修正などでやりとりが入るため、講座のときほどハイスピードでは回転しなくなることもあります。
ですが、それでもなお、物書きは、原稿を書かないと前に進みません。

人生の中で、テーマやモチーフやアイデアといった準備が思ったように進まないときや、作業時間がとれないとき、何を書いても今ひとつに思えるようなときは、当たり前にあります。
そういうときに、「物書きとしての自分の武器」、つまり、「自分のどんな特徴を読者さんに期待してもらうか」が確立されていると、そこを柱にして、書くサイクルを回せます。コアになる歯車のかたちと回転軸が決まっていれば、(錆び付いたり機械がゆるむ前に)トルクをかければ何か動くということだと思っています。

これは、何作も書くことによって見つけてゆくもので、ひょっとして今年の講座から書き始めたというかたにとっては、まだピンときにくいことかもしれません。

けれど、これを見出せているかどうかは、10年後に皆さんが書く作品にも、おそらくきいてきます。長く書き続けるかたは、プロになってもそうでなくても、一生、付き合ってゆく問題でもあります。
「あなたという物書きは、何者であるのか」という、物書きが向き合い続ける問いにつながっているからです。

まだ見つかっていない、まだおぼろげであるというかたが、ほとんどでしょう。

なので、課題として、「こうだと思った自分の特徴や得意なことを仮定して、この”仮の武器”を中心に、プロットを作ってみる」ことをやってみてください。
「自分が武器だと思うもの」を梗概に短く書きそえてください。
それを一番活かすかたちで梗概を作ってみてください。

こうした武器や特徴は、自然に変わってゆくこともあります。皆さんの成長に合わせて、あるいは、時流に合わせて、何度も作り変えたり修正をかけたりしてゆくものだと思います。自分がそうだと想定していたものが機能しなくて、人から聞いた自分の姿を中心に組み直す場合すらあるでしょう。
なので、今回の課題では、叩き台くらいのつもりで、気楽に設定してください。
この話が効いてくるのは、すべてを注ぎ込んで1作、渾身の原稿を出した後、2作目以降(人によってはデビュー数年後のかたも)のことなので、気の長い話でもあります。

皆さんの長い旅のはじまりに、物書きを続けるなら一生付き合う問題について、考えてみてください。

(長谷敏司)

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ゲンロン 大森望 SF創作講座
SF創作講座2024課題 – 超・SF作家育成サイト

長谷敏司 Satoshi Hase

1974年、大阪生まれ。2001年、第6回スニーカー大賞金賞を受賞した『戦略拠点32098 楽園』(KADOKAWA)でデビューしたのち、ライトノベルからSFに活動の場を広げる。2015年、『My Humanity』(早川書房)で第35回日本SF大賞を受賞。その他の著作に『円環少女』シリーズ(KADOKAWA)、『あなたのための物語』(早川書房)、『BEATLESS』(KADOKAWA)、『メタルギアソリッド スネークイーター』(KADOKAWA)、『ストライクフォール』シリーズ(小学館)など。最新刊『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』(早川書房)が22年10月18日に発売した。

塩澤快浩(早川書房) Yoshihiro Shiozawa

編集者。1968年、長野県生まれ。1991年、早川書房に入社。96年、第8代〈SFマガジン〉編集長に就任(09年に退任後、13年に再任)。02年、《ハヤカワSFシリーズ Jコレクション》を創刊。野尻抱介『太陽の簒奪者』、飛浩隆『グラン・ヴァカンス』などを送り出し、日本SFの新たな中核をつくりだす。翌03年には、ハヤカワ文庫JAの新レーベル「次世代型作家のリアル・フィクション」を立ち上げ、冲方丁『マルドゥック・スクランブル』を3カ月連続刊行。07年には円城塔と伊藤計劃のデビュー単行本を手がけた。12年にはハヤカワSFコンテストを創設、選考委員もつとめている。

大森望 Nozomi Ohmori

1961年高知生まれ。書評家・SF翻訳家・SFアンソロジスト。〈ゲンロン 大森望 SF創作講座〉主任講師。著書に『21世紀SF1000』、『新編・SF翻訳講座』、《文学賞メッタ斬り!》シリーズ(豊崎由美と共著)、《読むのが怖い!》シリーズ(北上次郎と共著)など。アンソロジーに《NOVA 書き下ろし日本SFコレクション》《不思議の扉》の各シリーズのほか、『星雲賞SF短編傑作選 てのひらの宇宙』など。訳書にコニー・ウィリス『ブラックアウト』『オール・クリア』など多数。2013年には『NOVA』が第34回日本SF大賞特別賞を受賞。