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【イベント概要】
ここ数年、国内の現代思想では「思弁的実在論」「オブジェクト指向存在論」、あるいは「人類学の存在論的転回」と呼ばれる言説が盛んに紹介され始めている。つい最近も、ミシェル・セールの『作家、学者、哲学者は世界を旅する』、アレクサンダー・ギャロウェイの『プロトコル』、グレアム・ハーマンの『四方対象』、ティム・インゴルド『メイキング』……などなど、関連書籍が話題を呼んでいる。
これらは英語圏では十年くらい前から登場し、互いにも密接な関連性を持って展開してきた。僕(渡邉)自身は映画批評や映像文化論を専門にしている人間であり、むろんこれらの哲学的動向に関しては専門外だが、いまの自分の仕事にもさまざまな形で着想をもらっている。他方で、これもまたここ最近の映像論界隈で盛り上がっているニューメディア研究やポストメディウム論、映像人類学といったデジタル以降、あるいはワールドシネマ台頭以降の映画の世界で脚光を浴びつつある理論や言説があるが、これらもまた以上の思想動向と関わりを持ってきた。ヒトとモノ、ヒューマンとノンヒューマン、あるいは観客とスクリーン、カメラと被写体……といった近代以来の関係が新たに再編されつつある感覚がある現代、今後の世界像とそこで作られる文化表現がどうなっていくのかを、今回のイベントでは「哲学」と「映像」の関わりから考えてみたい。これはまだあまりない試みのはずである。
ゲストには、今まさに新著『実在への殺到』(水声社)が大きな反響を巻き起こしている哲学者・清水高志氏と、こちらもここ最近、『辺境のフォークロア』(河出書房新社)『映像の境域』(森話社)など、映像、文学、民族学といったジャンル越境的な著作や翻訳を次々刊行されている金子遊氏をお迎えした。僕と清水氏、僕と金子氏、また清水氏と金子氏はそれぞれ以前から面識があり、前に一緒にイベントやワークショップもさせていただいたこともあるが、3人での鼎談は初めてである。清水さんはミシェル・セール研究の第一人者である一方、世界の哲学の動向にも鋭敏に反応する独創的な思想家であり、また情報哲学などデジタル以降の文化環境の変化にも幅広く関心をお持ちだ。また金子さんも、文学から実験映画、ワールドシネマ、映像人類学、ドキュメンタリー、民俗学……と、関心が幅広い。
今回、僕は司会役というよりは、「書生」として(笑)お二人に日頃独学で色々と考えていることを伺ってみたい。なので、この分野の初学者も楽しめるはず……? ともあれ、当日は3人の「化学反応」を楽しんでいただきたい。(渡邉大輔)
【イベント後記】
当日のtweetのまとめはこちら!
金子遊 Yuu Kaneko
1974年生まれ。映像作家、批評家。映像、文学、文化人類学を領域横断的に研究。著書に『辺境のフォークロア』(河出書房新社)『異境の文学』(アーツアンドクラフツ)『映像の境域』(森話社)、『ドキュメンタリー映画術』(論創社)。編著に『フィルムメーカーズ』『吉本隆明論集』(共にアーツアンドクラフツ)、共編著に『クリス・マルケル』(森話社)『国境を超える現代ヨーロッパ映画250』(河出書房新社)『アピチャッポン・ウィーラセタクン』(フィルムアート社)『アメリカン・アヴァンガルド・ムーヴィ』(森話社)。共訳書にマイケル・タウシグ著『ヴァルター・ベンヤミンの墓標』、『メイキング 人類学・考古学・芸術・建築』ティム・インゴルド著(左右社)。慶応義塾大学環境情報学部ほか非常勤講師、ドキュメンタリーマガジンneoneo編集委員。
清水高志 Takashi Shimizu
哲学者、東洋大学准教授。現代フランスの特異な哲学者、ミシェル・セールの研究で知られる。この九月に発表された新刊、『実在への殺到』Real Rush(水声社)では、カンタン・メイヤスーやグレアム・ハーマンといった現代哲学の旗手たち、また人類学の存在論的転回を代表するマリリン・ストラザーン、ヴィヴェイロスらの仕事から大きな刺激を受け、二一世紀の思想的、文化的な課題を同時代的に背負いながら、彼らの思考そのものを完成させる独自の哲学体系にまで到達しようとしている。過去のおもな著作に『ミシェル・セール――普遍学からアクター・ネットワークまで』(白水社、二〇一三年)、翻訳にミシェル・セール『作家、学者、哲学者は世界を旅する』(水声社、二〇一六年)がある
渡邉大輔 Daisuke Watanabe
1982年生まれ。映画史研究者・批評家。跡見学園女子大学文学部准教授。専門は日本映画史・映像文化論・メディア論。映画評論、映像メディア論を中心に、文芸評論、ミステリ評論などの分野で活動を展開。著書に『イメージの進行形』(2012年)、『明るい映画、暗い映画』(2021年)。共著に『リメイク映画の創造力』(2017年)、『スクリーン・スタディーズ』(2019年)など多数。