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【川添愛さんからの論点】
(1) どこまで、どのように口を出すべきなのか:
言語学、とくに私が携わってきた理論言語学は、言葉を自然現象と見なし、言葉の構造や意味を理論によって説明することを目的としており、原則として、言葉の「良し悪し」について議論することはありません。私自身も、普段からあまり他人の言葉をとやかく言わないように心がけています。
そうは言っても、言葉そのものおよび使用に「良いもの」と「悪いもの」があるのは確かであり、言葉の学問として世の中に貢献をしていくためには、どこかで「良し悪し」を語ることは避けられないように感じています。実際、世の中には「これはちょっと・・・」と思う言い回しや発話の事例がたくさんあり、口を出そうと思えばいくらでも出せます。しかし同時に、言語学者が良し悪しを語ることでそれが規範と見なされてしまうことが懸念されますし、そもそもどういった観点で良し悪しを語るのが有益なのか、私自身まだ明確に分かっていません。
古田さんは御本の中で、言葉の良し悪しについて非常にバランスの取れた語り方をしていらっしゃいます。その基盤にはご専門の倫理学があると思いますが、言葉の良し悪しについて語るときにどういうことを意識していらっしゃるか、くわしく伺えればと思います。
(2) 実のある議論ができる「場」をどう作るか:
古田さんの御本の中では、適切な批判の大切さや、言いよどむ時間を恐れないことの重要さが説かれており、非常に共感しました。私自身は大学院生時代にそのような場に触れ、結果として「議論の訓練」ができたと思っていますし、そのような場はおそらくどんな職種の方にも有益だろうと思います。研究者以外の方がどうやって議論の練習をされているのかは分かりませんが、誰にでも気軽に議論の練習や実践ができる機会があればいいなと思っています。古田さんは哲学対話や哲学カフェの事例を挙げていらっしゃいますが、そういう実践の場を広げていくためのアイデアなどありましたら伺いたいです。
(3) 他人の言葉にうんざりしないためには:
(1)と関連しますが、私が他人の言葉の良し悪しにあまり目を向けない理由の一つに、「目を向けたらキリがないし、うんざりする」ということがあります。たぶん、言葉の良し悪しにまともに目を向けることになると、言葉を悪用する人とか、まともに議論をしようとしない人に対して、尋常じゃない怒りが湧いてくると思います。このあたりのメンタルのコントロールができないと言葉の良し悪しを語るのは難しいと思うのですが、古田さんはどのようにバランスを取っていらっしゃいますか。
【古田徹也さんからの論点】
(1) 「噛み合わなさ」の傾向と対策:
まずは、川添さんの数々の御本の内容をざっと振り返りながら、コミュニケーションの齟齬というものをめぐって、「句や文を立体的に見る」ことの重要性や、文化や慣習などに関する知識が果たす大きな役割、「主語がでかい」ことの問題、言外の意味や含みをめぐる問題などを、近頃私自身が採集した事例なども織り交ぜながら、簡単に確認しておきたいと思います。
同時に、『言語学バーリ・トゥード』で扱われている「相互知識のパラドックス」と、そこから必然的に帰結する、《相手に語りかけることには本質的に「賭け(バクチ)」の要素が含まれている》という点、および、そのことが含意するいくつかのポイントについても確認したいと思います。
(2) 「それ」を表す言葉を知ることの意味:
たとえば、言葉の暗黙的な理解について、言語学上の理論やその用語を知ること。また、自分自身のいまの身心の状態を表す病気や障害、性質などの名前を知ること。それから、あるものの存在を多くの人が何となく了解はしていたけれども、明確な輪郭が与えられていなかったという状況において、「それ」に名前が与えられること。――これらの重要性も確認しておきたいと思います。
このうち、最後のポイントについては、拙著『いつもの言葉を哲学する』では「チェアリング」を取り上げましたが、今回のイベントでは、せっかくなので別の言葉を取り上げてみたいと思います。
(3) 言葉の「絶妙さ」というものについて:
言葉の絶妙さというのは得てして、期待されている言葉をその通りに言うことができたとか、文脈にぴったり合った言葉を用いることができたというよりも、むしろ、何かしらの「ずれ」や「違和感」、さらに「可笑しみ」というものを含んでいる場合が多いと思われます。つまり、「噛み合わなさ」と「絶妙さ」はむしろ相即することがありうる、ということです。
この点について、『言語学バーリ・トゥード』で扱われているラッシャー木村「こんばんは」事件や、「海老名市最高層を、住む。」などのマンションポエム、それから、「恋人が(は)サンタクロース」の絡みで、「私が(は)上岡龍太郎です」や「この世界の片隅に(で)」といった例についても掘り下げてみたいと思います。
それから、機械はそうした「絶妙な言葉」を出力することができるでしょうが、上記のような「絶妙さ」や「可笑しみ」といったものを、機械はそれとして評価するということができないのではないか――言うなれば、機械は《可笑しくて思わず笑ってしまう》ということができないのではないか――ということも、論点として提示したいと思います。(それはちょうど、絵描きAIが見事な絵を出力することはできるでしょうが、その絵に感動することはできないのではないか、ということと同様です。)
さらに、以上の論点に切り込むひとつの手掛かりとして、哲学者アンリ・ベルクソンの「笑い」論を取り上げ、それと桂枝雀の「緊張の緩和」論との異同などについても触れてみたいと思います。
【イベント概要】
作家で言語学がご専門の川添愛さん、東京大学准教授で哲学者の古田徹也さん、東京工業大学教授で文筆家・ゲーム作家の山本貴光さんによるトークイベントを開催します。
『言語学バーリ・トゥード』『ふだん使いの言語学』『ヒトの言葉 機械の言葉』など、言語学や情報科学をテーマにした著述活動で知られる川添さんはゲンロンカフェ初登壇。日常で使われる言葉の問題や人工知能と言語の関係などを、ときにユーモアあふれる巧みな筆致で綴り、幅広い読者層を得ています。博覧強記で知られる山本さん、斎藤哲也さん、吉川浩満さんによる年末恒例「人文書めった斬り!」イベントでも、川添さんの著作は毎年挙げられ、昨年末にお三方が選ぶ「人文的大賞2021」では著者部門として川添さんが選ばれました。
ウィトゲンシュタイン哲学の研究でも知られる古田さんも、ご専門である哲学や倫理学の分野から、言葉の問題を探究しています。第41回サントリー学芸賞を受賞した『言葉の魂の哲学』では、ウィトゲンシュタインやカール・クラウスの言語論の考察にはじまり、言葉を選び取ることの責任が私たちの社会の倫理の問題にどのように関わってくるのかを鋭く論じました。昨年刊行の『いつもの言葉を哲学する』では、私たちが生活で用いる身近な言葉を扱いながら、「言葉を大切にするとは何をすることなのか」を問いかけます。
今回ゲンロンカフェでは、おふたりとそれぞれ対談や鼎談をされてきた山本さんの進行のもと、なぜ言葉がうまく伝わらないことがあるのか、言葉を選ぶとはどういうことか、言葉と私たちの生きる社会はどう関わっているのかについて考えていきます。
どうぞお見逃しなく!
川添愛 Ai Kawazoe
九州大学文学部、同大学院ほかで理論言語学を専攻。博士(文学)。津田塾大学特任准教授、国立情報学研究所特任准教授などを経て、言語学や情報科学をテーマに著作活動を行う。著書に『言語学バーリ・トゥード』(東京大学出版会)、『ふだん使いの言語学』(新潮選書)、『ヒトの言葉 機械の言葉』(角川新書)、『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』(朝日出版社)など。
古田徹也 Tetsuya Furuta
東京大学大学院人文社会系研究科准教授。1979年生まれ。東京大学文学部卒業。同大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。新潟大学教育学部准教授、専修大学文学部准教授を経て、現職。現代の哲学・倫理学、特にウィトゲンシュタインの哲学を研究している。主な関心は、言語、心、行為。
著書に、『それは私がしたことなのか』(新曜社)、『言葉の魂の哲学』(講談社選書メチエ、第41回サントリー学芸賞)『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考』(角川選書)、『不道徳的倫理学講義』(ちくま新書)、『はじめてのウィトゲンシュタイン』(NHKブックス)、『いつもの言葉を哲学する』(朝日新書)、『このゲームにはゴールがない』(筑摩書房)、『謝罪論』(柏書房)など。訳書に、ウィトゲンシュタイン『ラスト・ライティングス』(講談社)など。
山本貴光 Takamitsu Yamamoto
1971年生まれ。文筆家・ゲーム作家。コーエーでのゲーム制作を経て文筆や教育に携わる。著書に『記憶のデザイン』(筑摩書房)、『マルジナリアでつかまえて』『投壜通信』(本の雑誌社)、『文学問題(F+f)+』(幻戯書房)、『「百学連環」を読む』(三省堂)、『文体の科学』(新潮社)、『世界が変わるプログラム入門』(ちくまプリマー新書)、『高校生のためのゲームで考える人工知能』(三宅陽一郎との共著、ちくまプリマー新書)、『脳がわかれば心がわかるか』(吉川浩満との共著、太田出版)、『サイエンス・ブック・トラベル』(編著、河出書房新社)など。翻訳にジョン・サール『MiND──心の哲学』(吉川と共訳、ちくま学芸文庫)、サレン&ジマーマン『ルールズ・オブ・プレイ』(ニューゲームズオーダー)など。目下は、東京科学大学教授、金沢工業大学客員教授。