その舞台となった原町の風景も、まことにのどかで平和そのものである。地図で見ると分り易いが、福島県の浜通りというのは非常に柔らかな海岸線で東に渺々たる太平洋を置き、西には厳しい冬の季節を防いでいる阿武隈山系が走っている。悪く言えば他地域と隔てられた辺地、よく言えば温暖で災害のない理想郷だ。産業も貧しく、それが却って素朴で純真な民心を形成している。皮肉に見れば政府という強権が物騒な施設を乗り込ませるには、もってこいの眠っているような土地である。大熊町に原発が建設された当時の地元の熱狂的な歓迎ぶりと、無線局建設が歓迎されたのはよく似ている。
残念ながら、大正時代のモニュメントとして聳え立つ無線塔は忘れられ、邪魔にされ、可哀想なものである。
人間は物を造る時だけ熱心で、その後片付けが大事なことを忘れている。
二上英朗『原町無線塔物語』、福島中央テレビ、1977年、p.106
【イベント概要】
7月5日(土)から8月9日(土)まで、ゲンロンカフェ店内で 「南相馬に日本一の塔があった——震災とネットワーク」展を開催します(協力:南相馬市博物館)。現在、上記写真のようにパネルや資料など、展示物を準備中です。
展示は原町無線塔が主題です。原町無線塔とは、かつて福島県南相馬市原町にあったという、高さ201メートル、東京タワーができるまでは東洋一の高さを誇っていたというコンクリート製の塔です。1921年に建設され、関東大震災の情報を世界に伝えるうえで重要な役割を果たし、1982年に取り壊されました。
本展覧会では、くしくも東日本大震災の被災地に立っていたこの無線塔の存在を通して、あらためて震災と情報流通の関係を考えます。無線塔と原発の立地がともに太平洋岸のプレート境界であったことも、いま振り返れば深い意味があるように思います。
展示初日には、南相馬市博物館学芸員の二上文彦氏、『原町無線塔物語』の著者二上英朗氏をゲストにお迎えし、ジャーナリストの津田大介氏と東浩紀が聞き手になってトークショーを開催します。開催時間、チケット購入方法など詳細はこちらをご覧ください。
また、最終日の8月9日にはゲンロン観光地化メルマガで「浜通り通信」を連載中の小松理虔さんをいわきからお招きし、東浩紀とのトークショーを開催します。会場オープンは18:00、イベントは19:00からになります。詳細はこちらをご覧ください。
展示は、イベント前後にご自由に観覧することができます。入場は無料です(別途イベントチケットが必要です)。
イベント開催日とは別に開店日を設けるかどうかは、現在検討中です。詳細は続報をお待ちください。