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〈ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾〉の講義を生中継します。
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【課題】
2016年9月に先行試写が開始されるや、本作は一部でほとんど熱狂的とも言える反響をひきおこした。先行試写を観た評論家、著名人が口をきわめて絶賛し、賞賛の輪はたちまち拡大した。2016年11月の公開時点では63館に過ぎなかった本作は、その後SNSを中心に急速に支持を伸ばし、公開217日目となる2017年6月15日に累計動員数200万人を突破、興収25億9000万円を達成した。受賞歴としては第90回キネマ旬報ベスト・テン日本映画ベストワン及び監督賞、第71回毎日映画コンクール日本映画優秀賞・音楽賞・大藤信郎賞、第41回アヌシー国際アニメーション映画祭長編部門審査員賞(準グランプリ)などがある。ちなみに辛口の批評が多い映画批評サイト「Cinema Scape」では、数多の古典・名作群に伍して歴代5位の平均点4.5を記録している。
ライムスター宇多丸氏は、自身の映画批評番組内で本作の採点を「5000億点」とした。私自身は試写の段階で「120年に一度の傑作」と断定した(その後劇場で6回鑑賞した)。断るまでもないが「リュミエール兄弟以降、最高の映像作品」という意味である。
以上のように本作については、「賞賛以外の批評」がほとんど存在しない。これまでになされた数少ない批判は、単なる誤読、偏見、政治的な無知によるものばかりである。確かに本作は圧倒的に素晴らしい。その存在自体を奇跡と呼んで差し支えない。しかしそれでも、これほどまでにまともな批判が不足している状況は健全とは言えない。それは批評の敗北である。
この状況に一石を投ずるためにも、塾生の皆さんには、その研ぎ澄まされた舌鋒で、本作に一太刀なりとも鋭い批判を浴びせてほしい。たとえあなたが本作を心底愛していても問題はない。あなたが真の批評家ならば、おのれの命を捧げても良いと思える作品にすら、いくつもの瑕疵を指摘できるはずなのだから。
予め断っておくが、その作業は困難をきわめるだろう。凡庸な批判は絶対的片隅信者たるこの私が作品の門前に立ちはだかり、ことごとくはねのけ打ち返すからだ。知略をめぐらせ、時に狡知を振り絞り、語彙とレトリックの限りを尽くして、この私を一瞬なりとも絶句せしめるような批評的挑戦を心待ちにしている。
【イベント後記】
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斎藤環 Tamaki Saito
1961年、岩手県生まれ。1990年、筑波大学医学専門学群環境生態学卒業。医学博士。爽風会佐々木病院精神科診療部長(1987年より勤務)を経て、2013年より筑波大学社会精神保健学教授。専門は思春期・青年期の精神病理、および病跡学。著書に『「自傷的自己愛」の精神分析』(角川新書)、『映画のまなざし転移』(青土社)など。2013年、『世界が土曜の夜の夢なら』(角川書店)で第11回角川財団学芸賞を受賞。2020年、『心を病んだらいけないの?』(與那覇潤との共著、新潮社)で第19回小林秀雄賞を受賞。
佐々木敦 Atsushi Sasaki
撮影=新津保建秀
1964年生まれ。思考家/批評家/文筆家。音楽レーベルHEADZ主宰。映画美学校言語表現コース「ことばの学校」主任講師。芸術文化のさまざまな分野で活動。著書に『成熟の喪失』(朝日新書)、『「教授」と呼ばれた男』(筑摩書房)、『増補新版 ニッポンの思想』(ちくま文庫)、『増補・決定版 ニッポンの音楽』(扶桑社文庫)、『ニッポンの文学』(講談社現代新書)、『未知との遭遇【完全版】』(星海社新書)、『批評王』(工作舎)、『新しい小説のために』『それを小説と呼ぶ』(いずれも講談社)、『あなたは今、この文章を読んでいる。』(慶應義塾大学出版会)、小説『半睡』(書肆侃侃房)など多数。