【ゲンロン10刊行記念】ユートピアを記録/記憶する──コンセプチュアリズムとペーパーアーキテクチャから見るロシア芸術

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【イベント概要】

建築史家の本田晃子氏とゲンロンの上田洋子による共産主義建築シリーズ第6弾。
今回はロシアの美術・文学を専門とし、南極ビエンナーレの参加者でもある鴻野わか菜氏をゲストに、現代美術、建築、そして詩における記憶と記録の問題を議論する。

1970年代初頭に起こったモスクワ・コンセプチュアリズムと呼ばれる美術の潮流がある。
その代表的な美術家のひとり、イリヤ・カバコフは越後妻有の風景にテクストを重ねた作品「棚田」で日本でもよく知られている。
カバコフをはじめ、モスクワ・コンセプチュアリズムの作品にはどこかの出来事やだれかの人生をあたかも存在したかのように捏造し、それを記録するものが多く見られる。

他方、ペーパー・アーキテクチャは1980年代、つまりカバコフらの後続世代の運動だ。
ソ連体制下、ほとんど自分のプランを具現化できない建築家たちは、状況を逆手にとってそもそも実現できない建築を考案し、記録して、紙の上だけで存在する建築物を生み出した。

しかも、彼らはそれらの作品を匿名で国外のコンペに出品し、高い評価を受けていた。
たとえばアレクサンドル・ブロツキーとイリヤ・ウトキンは1982年のセントラル硝子国際コンペで最優秀賞を受賞、その後も何度か入賞を果たしている。
また、新建築住宅設計競技のウィキペディアを見ると80年代に「設計者不明」という記載があるのがわかるがその文字列のうちのいくつかの裏には、匿名のソ連の建築家たちがいる。

ソ連・ロシアの芸術は、なぜ存在しない/しえないものをあたかも存在するかのように描き出すのか。
そして、それらの作品が不自由なソ連時代をかいくぐって生き残り、いまも力を持つのは何故なのか。

『ゲンロンβ』における連載「亡霊建築論」が人気の本田氏と、現在市原湖畔美術館で開催中の「夢みる力―—未来への飛翔 ロシア現代アートの世界」展のキュレーターでもある鴻野氏。
ソ連・ロシアの建築/現代美術研究のいまを担う二人がロシア宇宙主義からアレクサンドル・ブロツキーのアンビルト建築まで、ロシア芸術のユートピアを語り尽くす。

 
▼ 本田さん、鴻野さんからイベントに向けたコメントが届きました!

革命後のロシアでは、史上初の社会主義国家の建設という使命の下、タトリンの《第三インターナショナル記念塔》やスターリン時代の《ソヴィエト宮殿》を筆頭に、無数の巨大建築プロジェクトが計画された。しかしその多くは、文字通りユートピアのままに終わる。

それから半世紀後、「停滞の時代」のロシアで活動をはじめた建築家たちは、やがてペーパー・アキテクチャー運動と呼ばれるようになるひとつの運動へと合流していく。ペーパー・アークテクチャー(ロシア語では「紙の建築 бумажная архитектура」)という言葉は、ソ連時代には主として非現実的な建築プロジェクトを批判・嘲笑するために用いられた。しかし、それを彼らはあえて自らのものとして引き受け、意図的に実現不可能な建築物の設計図を描いていった。建築家の本分が建設するために設計することであるとすれば、彼らはまさしく自己否定する建築家として振る舞ったのである。

そんなペーパー・アーキテクトたちの作品に繰り返し出現するモチーフが、ユートピア、廃墟、博物館だ。彼らは寓話的な形式を用いて、これらのモチーフをめぐる物語を紡ぎ、建築物のイメージを描いていく。だが、それらは時に奇妙なねじれや分裂をみせる。

201612

《アレクサンドル・ブロツキー&イリヤ・ウトキン《ガラスの塔》1984年》

たとえばペーパー・アーキテクトたちは、ユートピア的建築プロジェクトを、あるいはユートピアの廃墟を、しばしば憧憬やノスタルジーをこめて描き出す。しかし同時に、それらの建築物のイメージがあくまで虚構やイリュージョンに過ぎないことも、これ見よがしにさし示すのだ。そこでは掻き立てられたユートピアへの憧憬やノスタルジーは、当の対象を喪って、宙吊りにされてしまうのである。

ペーパー・アーキテクトたちが描き出す、過去の建築物を収集・保管し、記憶しようとする試みも、やはり両義性を秘めている。そこでは保管することが破壊へと、記憶することが忘却へと裏返ってゆくのだ。コンセプチュアリストであるイリヤ・カバコフのがらくたをめぐるインスタレーション作品のように、彼らが描く博物館建築ないし建築博物館もまた、そのような根本的な分裂をはらんでいるのである。

201612

《アレクサンドル・ブロツキー&イリヤ・ウトキン《Columbarium Habitabile》1986年》

今回のイベントでは、コンセプチュアリストたちから一回りほど遅れて1955年に生まれたアレクサンドル・ブロツキーとイリヤ・ウトキンの二人の作品を中心に、1980年代にソ連建築界のアンダーグラウンドで活躍したこれらペーパー・アーキテクトたちの作品を紹介していきたい。

(本田晃子)

人間の生を記憶すること。
それは、古今東西の文化における主要なテーマであると同時に、ロシア美術・文学においてもとりわけ重要なテーマです。

201612

《イリヤ&エミリア・カバコフ プロジェクト宮殿 1998 courtesy of artists》

ソ連のアンダーグラウンド芸術家だったイリヤ・カバコフ(1933年生)は、1970年代の統制下のモスクワで「人々の声を記録したい」という強い願いに突き動かされ、ソ連の平凡な人々の言葉を記したインスタレーション(空間芸術)を作り続けました。
また、旧ソ連に住む市井の人々(カバコフが作り出した架空の人物)の実現しなかった夢やささやかな計画を保存する美術館として、《プロジェクト宮殿》を制作しました。
ソ連崩壊の熱狂のうちに急速に忘れ去られていったソ連人の生や日常を、いかに記憶するかということは、90年代末までのカバコフの創作の最大のテーマでした。
そして今、86歳になり、病に苦しむカバコフは、あらゆる人間の生は、死後、いかに記憶され、浄化されるのかというテーマに取り組んでいます。

201612

《レオニート・チシコフ 祖先を訪問するための宇宙ロケット(市原湖畔美術館「夢みる力― —未来への飛翔 ロシア現代アートの世界」展) 2019 photo:長塚秀人》

宇宙やユートピアをテーマに制作し続けてきた現代アーティスト、レオニート・チシコフ(1953年)の作品に通底するのも、故郷や両親への愛、あらゆる死者を追悼したいという願い、すべての人間は記憶されるべきであるという思想です。
チシコフの《祖先の訪問のための手編みの宇宙ロケット》は作家の祖先の洋服で編んだ作品ですが、本作は、すべての祖先を復活させ、彼らと共に宇宙に進出したいと願ったロシア宇宙主義者ニコライ・フョードロフへのオマージュにもなっています。

201612

《レオニート・チシコフ ラドミール(市原湖畔美術館「夢みる力―—未来への飛翔 ロシア現代アートの世界」展) 2019 photo:長塚秀人》

一方、チシコフの《ラドミール》は、ロシアの詩人ヴェリミール・フレーブニコフが夢見た宇宙的な未来都市を表現した作品です。
チシコフは、人間の夢のはかなさを表現するために、パスタを溶けやすい糊で張り合わせたもろいオブジェを制作しました。
市原湖畔美術館で開催中の「夢みる力―—未来への飛翔 ロシア現代アートの世界」展のために、チシコフはボランティアと共に約10日間かけて夢の未来都市を制作しましたが、9月9日の台風による停電で空調が止まり、暑さにより糊が溶け、未来の建築や太陽をかたどったパスタの作品は全壊しました。
チシコフはこの状況を受けて、
「人間の夢は打ち砕かれるものです。人間の夢はもろいものなのです。でも、人は何度でも夢を見るのです。皆で力を合わせて世界を再建しましょう。太陽はふたたび輝くのです」
と語りました。
9月17日、チシコフの助言のもと、大勢の人々が千葉、東京、新潟等から集結し、パスタのオブジェは1日で復元されました。
チシコフは、「この新しい《ラドミール》は、ロシアの宇宙主義者ニコライ・フョードロフの言う『共同事業の哲学』にほかなりません」と語りました。

こうしたロシアのアーティストの作品には、多くの架空の人物や、過去の実在の人物が登場し、彼らの夢やささやかな希望が語られます。
カバコフやチシコフの作品からは、人間の夢や計画は実現するかどうかが重要なのではなく、夢みること自体が大切であり、実現しなかった夢も人間の生の一部として記憶されるべきだという思想が伝わってきます。

ニキータ・アレクセーエフ(1953年生)は、若い頃に日本の文学を読みふけり、「箒木(ははきぎ)」という伝説に出会いました。
遠くからは見えるのに近くへ行くと見えなくなるという伝説の木は、アレクセーエフにとって、手に入らない理想、美、実現しない夢の象徴となりました。
ですが今、病のうちに死を予感しているアレクセーエフは、「それでも人生は美しかった」と語っています。

ロシアの詩壇では、しばしば、編集者や研究者ではなく現代詩人たち自身が、先に亡くなった詩人たちの原稿を丹念に整理し、詩集を出版しています。
先に世を去った詩人達の言葉を記録し、永遠のものにするという使命感を多くのロシアの詩人たちが抱いているのは興味深いことです。

今回のトークでは、ロシア美術や詩における、記録、記憶、死と忘却への恐れ、不死への願い、夢みる者としての人間、共生の希望について、他にも多くの美術作品や詩を通じて考えていきたいと思います。

(鴻野わか菜)

参考
https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/18638

 

当日のtweetのまとめはこちら

togetter

鴻野わか菜 Wakana Kouno

1973年生まれ。広島出身。東京外国語大学卒業。東京大学人文社会系研究科、国立ロシア人文大学大学院修了(Ph.D)。千葉大学文学部准教授を経て、現在は早稲田大学教育・総合科学学術院教授。ロシア文学・美術を中心に研究する一方で、展覧会の企画や監修に関わり、「夢みる力——未来への飛翔 ロシア現代アートの世界」展(市原湖畔美術館)、「カバコフの夢」(大地の芸術祭)、「ニキータ・アレクセーエフ 岸辺の夜」(千葉大学)等でキュレーションを務める。共著に『カバコフの夢』(越後妻有里山協働機構)、『イリヤ・カバコフ世界図鑑――絵本と原画』(企画・監修:神奈川県立近代美術館)、『幻のロシア絵本 1920-30年代』(淡交社)、『都市と芸術の「ロシア」―ペテルブルク,モスクワ,オデッサ巡遊』(水声社)他。訳書にレオニート・チシコフ『かぜをひいたおつきさま』(徳間書店)、イリヤ・カバコフ『プロジェクト宮殿』(共訳、国書刊行会)など。

本田晃子 Akiko Honda

1979年岡山県岡山市生まれ。1998年、早稲田大学教育学部へ入学。2002年、東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学表象文化論分野へ進学。2011年、同博士課程において博士号取得。日本学術振興会特別研究員、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター非常勤研究員、日露青年交流センター若手研究者等フェローシップなどを経て、現在は岡山大学社会文化科学研究科准教授。著書に『天体建築論 レオニドフとソ連邦の紙上建築時代』、『都市を上映せよ ソ連映画が築いたスターリニズムの建築空間』(いずれも東京大学出版会)、『革命と住宅』(ゲンロン)など。

上田洋子 Yoko Ueda

撮影=Gottingham
1974年生まれ。ロシア文学者、ロシア語通訳・翻訳者。博士(文学)。ゲンロン代表。早稲田大学非常勤講師。著書に『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β4-1』(調査・監修、ゲンロン、2013)、『瞳孔の中 クルジジャノフスキイ作品集』(共訳、松籟社、2012)、『歌舞伎と革命ロシア』(編著、森話社、2017)、『プッシー・ライオットの革命』(監修、DU BOOKS、2018)など。展示企画に「メイエルホリドの演劇と生涯:没後70年・復権55年」展(早稲田大学演劇博物館、2010)など。

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