ゲンロン ひらめき☆マンガ教室 第5期#2ひらめきとは──ひらめき2

【ネーム課題】

自己紹介を「物語」にして描いてください

例年のことなのですが、今年も、第1回目の課題は「自己紹介」にします!
…というわけで、以下の課題文も、基本的には昨年とほとんど同じです。ただし、条件がひとつあります。それは「物語にする」ということです。

たとえば「私の名前は○○です。××県出身で…」ではじまって「ゲンロン ひらめき☆マンガ教室、一年間頑張るぞ!」みたいな内容を描くのはダメ、ということです。
そういうのは、「物語」とか「作品」というよりは、あなたの身辺にいるひとたちだけに向けた、ただの「挨拶」ですものね。そうではなくて、ちゃんと主人公などのキャラクターが出てきて、ストーリー展開があって、最後に何らかのオチが付く。そういうものを16ページ「以内」で書いてください。つまり「あなたの実際に経験したこと」と「それに対して、それが起きたときに、あるいは時間が経った今、どう感じているのか、その感情を使いつつ、自由に物語を描いてください」ということです。「主人公」はあなた自身でもいいし、あなた自身じゃなくてもOKです。
あなた自身がマンガに登場すると、いわゆるエッセイコミックとか体験記というものに近くなります。一方、あなたの経験と感情をベースにしているけど、あなたではない第三者、つまりキャラクターにそれを演じさせると、より「物語」っぽくなります。

どちらを選ぶかは自由です。ただし、大事なのは「物語」にすることです。
ですから、あなた自身を登場人物にした場合でも、結局はあなた自身とは切り離したエピソードのように描いてください。そして、それを読んだときに「なるほど、この作者はこういうものの考え方をするんだなあ」とか「こういう出来事が実際にあったのかな?」とか、思えるような内容にしてほしいのです。

あなたが実際に経験したこと(現実)と、完全に同じである必要はありません。
たとえばあなたとお母さんの話を描くのであれば、あなた自身ではなくお母さんの立場で描いたっていいです。あなたが実際に行動したのと違った結末を描いてもOKです。
「あなたの経験と感情をベースにしている」なら、SFだっていいし、時代劇だっていいです。あるいは、実際にはそんなことは思わなかったんだけど、あとでその経験を客観的に振り返ってみたら、こういうふうに思うなあ、ということをキャラクターに言わせたっていいです。

もちろん、急に物語を描くなんて無理、マンガや物語の描き方が分からない、という人もいるでしょうね。

そういう人は、他のマンガを読んで、そのやり方をマネしましょう。たとえば台詞の文字数。たとえばコマの大きさ。たとえば枠線の太さ。その他いろいろな、マンガを描いたことがないときに疑問に思うようなことは、すべて他人の作品に答えがあります。だからじっくり見ましょう。「自分以外の人が描いた、一般的なマンガ」がどうなっているのかじっくり見て、自分も同じことをやればいいのです。

毎年この課題では、『ちびまる子ちゃん』や『東京都北区赤羽』などの作品を例として挙げています。そういう「作者自身のことを描いた」とおぼしきマンガを「描き手の立場になって」観察し、マネすればいいのです。もちろん、ひらめき☆マンガ教室の過去の受講生の課題作品を参考にしてもいいです。

オススメなのは、「なるべく最近のマンガ」を参考にすることです。古いマンガの技術を取り入れてはいけません、というわけではありません。だけど、そのマンガが高度な作品でも、技術的に今の読者や、掲載媒体にマッチしない技術が使われていることが多いです。あなたが現代に生きている以上、基本となる技術は、現代的なものであるべきです。だから基本は、まず「最近のマンガ」を参考にしましょう。

さて、課題文は以上です。が、去年の課題文には、これから1年間、すべての課題で共通して意識していただきたい、大事なヒントを書いておきました。今年もそれを書いておきますね。必ず参考にしてください。

①まず上記の「課題文」に書かれていることを何度も読みましょう。そして、「何をやることを要求されているのか」を、文章からつかみましょう。これが超重要です!

②16ページ以内というのは、意外と短いです。たぶん、1つか2つ、メインのエピソードを描くだけで、あっという間に終わってしまいます。いきなり気負って、壮大なエピソードやあなたの言いたいことをぎちぎちに詰め込んだマンガを描こうとすると、かえって、読む人には伝わらなくなってしまいます。「一番いいたいこと」「この話に絶対に必要な要素」だけを描くようにしてみてください。16ページでどの程度の話が描けるか分からない人は、他人が描いた16ページの短編マンガを探して、どのくらいのエピソードが盛り込まれているかを調べてみるとよいです。
「16ページの短編マンガ」でネット検索すれば、そういうものは一杯出てきます。できればプロが描いたものがいいと思います。とにかく、何でも、人の描いたものを参考にしてみましょう。

③上とは逆に、16ページ以内というページ数の「多さ」にも注意した方がいいです。大事なのは、「これをペン入れしたときに、自分は締め切りまでに完成させられる」というネームを描くことです。あなたの思っている絵は、どのくらい細密ですか?その絵で、16ページのペン入れができるでしょうか?できないなら、無理して16ページ描く必要はないです。8ページだっていいし、4ページだっていい。16ページ「以内」というのは、そういう意味です。ただし、4ページしか描かなかった場合、16ページ描いた場合に比べると、当然、読み応えが下がることが考えられます。そのへんのリスクも理解したうえで、やってみいてください。

④「ネーム」とか言われても描き方がわからない、というひとは、コマ割りと、構図と、誰がどんなポーズや表情をして、何を言っているか分かる程度の絵を描いてみましょう。ただし、全ページ棒人間とかにしちゃうと、皆さんがどんな絵を描くのか、全く伝わりません。ネームというのは、これから作る作品の設計図として、仕事の相手(編集者)などにも見てもらうものです。読む相手が「自分の絵柄を知らない人」だということも考慮して、ちゃんと完成形の絵柄がわかるページや構図を、1ページくらいは入れることをオススメします。あっ、1ページだけマジの下描きやペン入れをしなさいってことじゃないですよ。要は「読んだ人が分かるようにする」ということです。

⑤タイトルと作者名を入れましょう。これがたとえインターネット上に無料公開するマンガだとしても、それが「あなた」の描いたものだと分かってもらったほうがいいと思います。なので、どこかに自分の名前を添えておくべきです。また、これがちょっと遊びで描いたものではなく、「作品」なのだと思ってもらうには、タイトルも入れておいたほうがいいですよ。

⑥アピール文をしっかり書きましょう。あなたがどういうふうに課題文を理解して、なぜそのような作品を描くにいたったかを、説明する文章を書いてください。別に、その理解が間違ってたっていいんです。大事なのは「自分はこう考えたのでこうしてみたんです」ということを講師(や、仕事相手)にちゃんと伝えられるようにすることです。

⑦絶対に完成させて、提出してください!みんな、誰もが、失敗したり、うまくできなかったり、会心の出来だと思ってもあんまりピンときてもらえなかったりします。でもこれは「教室」の「課題」なのですから、当たり前です。その経験を経て、次の課題で修正し、より精度を上げていく、という繰り返しをこれから1年間やっていくのです。だから失敗を恐れてはいけません。とにかく曲がりなりにも完成させることが大事です。

⑧ちなみに、未完成だと、ひらめき☆マンガ教室では評価の対象になりません。必ず「完成」させましょう。描くのが遅くて完成しそうにないなら、ページ数を減らすなり、絵のクオリティを下げて作業時間を短縮するなり、日々の生活を見直して作業時間を増やすなりという「工夫」が必要になるでしょう。大事なのは、あなたが今後、月に1回、ネームを描いて、ペン入れをする、その繰り返しが何とかこなせるくらいのページ数とクオリティにすることです。
「間に合わないけど、描きたい内容なので、途中まで提出します!」とか「絵が最初の方しか入ってないけど、提出します!」みたいなのは、だめですよ。

以上です! もし、「わからない!」という部分があるようでしたら、受講生専用のフォームから質問を送ってください。「わからないなあ」と思いながら、わからないところを放置して、何となく描いて提出しちゃうのはいけません。ちゃんと先に聞いたほうが、あとで損をしませんよ。

それでは、よろしくお願いします!

(さやわか)

 
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山口つばさ Tsubasa Yamaguchi

「アフタヌーン四季賞 2014年夏」佳作を受賞。現在『月刊アフタヌーン』にて『ブルーピリオド』を連載中。同作は、「第44回講談社漫画賞」総合部門賞、「マンガ大賞2020」大賞、「このマンガがすごい!2019」オトコ編4位、「TSUTAYAコミック大賞2018」ネクストブレイク部門大賞などを受賞。過去作に、新海誠原作『彼女と彼女の猫』。

さやわか Sayawaka

1974年生まれ。ライター、物語評論家、マンガ原作者。〈ゲンロン ひらめき☆マンガ教室〉主任講師。著書に『僕たちのゲーム史』、『文学の読み方』(いずれも星海社新書)、『キャラの思考法』、『世界を物語として生きるために』(いずれも青土社)、『名探偵コナンと平成』(コア新書)、『ゲーム雑誌ガイドブック』(三才ブックス)など。編著に『マンガ家になる!』(ゲンロン、西島大介との共編)、マンガ原作に『キューティーミューティー』、『永守くんが一途すぎて困る。』(いずれもLINEコミックス、作画・ふみふみこ)がある。「コミックブリッジ」で『ヘルマンさんかく語りき』(作画:倉田三ノ路)を連載中。