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【紹介文(聞き手の春木晶子氏より)】
日本美術史界のビッグネームがゲンロンカフェに初登場。
大学で教鞭をとるかたわら「日本美術応援団」団長を名乗り、多数の自著や講演会ほかさまざまなメディアを通じて日本美術の魅力を発信し続ける山下裕二氏。企画、監修した展覧会は数知れず。昨今の日本美術人気を導いた立役者の筆頭である。他方、会田誠や山口晃といった今日では日本を代表する作家たちを、その名が広く知られる前から支持してきた美術批評家でもあり、今日なお新人作家の発掘に注力してもいる。
近著『商業美術家の逆襲—もうひとつの日本美術史—』(NHK出版、2021年)には、氏の多岐にわたる活動を通底する思想が綴られているように思う。前年の『日本美術の底力「縄文×弥生」で解き明かす』(NHK出版、2020年)に続く本書で氏は、アカデミックな日本美術史に対するささやかな異議申し立てを企図したという。
山下氏が提唱する「もうひとつの日本美術史」とは、今日では忘れさられてしまった明治以降の商業美術家に焦点を当てて、既存の日本美術史を編み直したものだ。
本書にととまらず、「小村雪岱スタイルー江戸の粋から東京モダンへー」展、「渡辺省亭—欧米を魅了した花鳥画—」展、「コレクター福富太郎の眼—昭和のキャバレー王が愛した絵画ー」展、といった立て続けに話題となった展覧会の企画監修を通して、まさに目にもの見せる仕方で、氏は商業美術家たちの圧倒的な力を知らしめてきた。
既存の美術史はなぜ、こんなにも豊かな造形の数々を見落としてきたのか。氏が糾弾するのは、「アカデミックな日本美術史」のみならず、作品そのものではなく「名前」でものを見る、権威主義的な日本社会ではなかろうか。
おそらくわたし(春木)自身も、その気迫に引き込まれて、美術史研究に足を突っ込むことになった。大学二年生の時、指導教員に勧められた山下裕二氏の論文に感化され、室町将軍の唐物コレクションをゼミ発表のテーマにしたのが、日本美術史に取り組んだはじめだった。
その後、山下氏が監修する「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」展(東京都美術館、2019年)の講演会で、初めてお目にかかる機会をいただいた。その折に手渡した曽我蕭白に関する拙論を、やはり氏が監修した「曽我蕭白 奇想ここに極まれり」展(愛知県美術館、2021年)の展覧会図録に掲載いただいた。その縁からほどなくして、ゲンロンカフェで聞き手を勤める大役を仰せつかることとなった。
なぜ、氏は商業美術家に焦点を当てるのか。わたしは、氏の活動が、その意義を体現しているように思う。時に挿絵画家となり、装丁家となり、工芸の意匠を手がける職人となる、氏の取り上げる商業美術家たちは、隣接分野の芸術家たちと協同し、大衆がそれを手に入れたいと思う表現を追求する。独善的に理想の世界を構築するのではなく、同時代の作家や市場に与しながら、自らの表現を模索する。そうした制約のもとでこそ、価値がある造形が生み出されていく。
山下裕二というビッグネームにではなく、そんな山下裕二の豊かな活動にこそ、焦点を当てる機会としたい。(春木晶子)
山下裕二『商業美術家の逆襲——もうひとつの日本美術史』(NHK出版新書)
山下裕二 Yuji Yamashita
1958年、広島県呉市生まれ。東京大学文学部美術史学科卒業、同大学院修了。明治学院大学文学部芸術学科教授。雪舟をはじめとする室町水墨画の研究を起点として、縄文から現代まで、幅広く日本美術史の研究を手がけている。近年監修した展覧会として、「コレクタ-・福富太郎の眼」、近著に『日本美術の底力 「縄文」×「弥生」で解き明かす』(NHK出版新書)、『商業美術家の逆襲 もうひとつの日本美術史』(同)などがある。
春木晶子 Shoko Haruki
1986年生まれ。江戸東京博物館学芸員。専門は日本美術史。 2010年から17年まで北海道博物館で勤務ののち、2017年より現職。 担当展覧会に「夷酋列像―蝦夷地イメージをめぐる人・物・世界―」展(北海道博物館、国立歴史民俗博物館、国立民族学博物館、2015-2016)。共著に『北海道史事典』「アイヌを描いた絵」(2016)。主な論文に「《夷酋列像》と日月屏風」『美術史』186号(2019)、「曾我蕭白筆《群仙図屏風》の上巳・七夕」『美術史』187号(2020)、「北のセーフイメージ」『ゲンロンβ』49号・50号・52号、「あなたに北海道を愛しているとは言わせない」『ゲンロンβ』54号・55号。株式会社ゲンロン批評再生塾第四期最優秀賞。